Sweet rain







電話ではいつもと違う、君の声。
電話でしか味わえない甘い甘い時間を、2人で楽しもう?




Sweet rain





夕方頃から突然ザーザーと勢いよく降りだしてきた雨。夜になった今でもその勢いは変わらず、むしろ夕方よりも酷くなって、カミナリも鳴っている。そんな時だった。俺の携帯で前々から設定しておいた、大好きな曲が部屋中に鳴り響いたのは。この曲に設定していたのは1人しかいないので、ディスプレイを確認しなくても誰からだなんてすぐにわかった。俺は口元を軽く緩めながらも、未だ音楽が鳴り続けている携帯を片手に持ち通話ボタンを押し、それを耳に当てた。



「もしもし…?ブン太…?」



携帯から耳へと伝わる可愛らしい声は、俺の彼女、那華の声だ。



「おぅ。どーした?こんな時間に電話かけてくるなんて、めずらしくね?」

「そ、そうかな…?た、たまには良いじゃない!」



いつもならこんな時間に連絡してこない那華。電話はもちろん、メールだってそうだ。そりゃ好きなヤツだから理由がなくても電話して来てくれっと嬉しいんだけど、珍しいし、何かあったんじゃないかと思う。だけど理由を聞いても「な、なんでもないよっ!」とどもりながら那華は否定する。

そんな時、ゴロゴロゴローっとまたカミナリが鳴り響いた。雨もさっきよりもどんどん強くなっている。カミナリが鳴ったと共に携帯から聞こえてきた、彼女の悲鳴声。



…もしかして、



「那華?ちょ、大丈夫かっ!?」

「ううう…怖いよー…!」



携帯から伝わる彼女の声は、どことなく震えてて今にも泣き出しそうな声だった。



「お前今どこにいるんだよっ!?家族の人は…?」

「お父さんは出張だし、お母さんは今日友達の家に止まるってさっき電話がきて…今1人で自分の部屋にいる…!」

「なっ…!たしかお前カミナリ苦手じゃなかったっけ!?」

「…だから困ってるんでしょー…!ブン太のバカー!!」



うわぁん、と泣き出す那華。実際に見えてはないけど、今の那華の姿が想像出来る。きっと自分の部屋の隅っこの方に居て、今こうして俺と電話してるんだろうな。きっと、両親が2人ともいなくて、苦手なカミナリが鳴り響いてて不安になっていた時に、那華は俺を頼りにして、電話をしてきたんだ。そう考えると、怖がって泣いてる那華には悪いけど、嬉しくなった。


今すぐ会って抱きしめてやりたい所だけど、この雨じゃさすがに…。俺はない頭をフル回転させて良い方法はないかと考える。



「あ、そうだっ!」

「…?」

「那華、今自分の部屋の何処にいるんだ?」

「え、…隅っこの方だけど…。」



やっぱり。



「じゃあ布団にもぐってみてみ?あれ、那華の部屋ってベッド?それとも布団?」

「ベッドだけど…!」

「じゃあ布団敷いたりしなくていいな!とりあえず、ベッドの中潜ってみな!」

「うん…。」



受話器の奥からモゾモゾと音が聞こえる。
俺が言った通りベッドに潜り込んでくれてんだな。「入ったよ、ブン太。」

「ちゃんと顔も出ないように潜ったかー?」

「うん。」

「じゃあ、目閉じて?」





「…あれ?」

「どう?カミナリとか雨の音、聞こえなくなったか?」

「少しは聞こえるけど…、気にならないよ!え、何で!?」

「はは!布団の中入ったら暖かいし、落ち着くだろぃ」

「うん!すごいブン太!天才的!」

「だろぃ?本当は今すぐ会いに行きたい所だけど、さすがにこの雨じゃいけないからさ…。悪いけどそれで我慢してくれぃ」

「心配してくれてたんだね…。ありがとう。そして夜遅くにごめんね…?」

「気にすんなって!那華は俺の彼女だろぃ?今日の電話、俺に甘えてきてくれたみたいで、その…嬉しかったぜぃ!」



慣れないことを言葉にして、熱が一気に顔に集まる。くっそ、自分で言っててなんだけど、むっちゃ恥ずっ…!
そんな俺に那華はクスッと笑って、また「ありがとう」とお礼を言ってきた。今日の電話で前よりもお互いの距離が縮まった気がする。




時間が過ぎるにつれて、雨もだんだん弱まってきて、カミナリの音も聞こえなくなってきた。



「大分止んだみたいだなー。」

「……」

「…?那華…?」


「……すぅ、」



寝息…?きっと苦手なカミナリが収まって安心して、寝ちまったんだろうな。
そんな彼女に俺はたまらなく愛おしい気持ちがこみ上げてきて、俺の顔は勝手に顔の筋肉が緩んでおかしな顔になっていただろう。

布団の中で蹲って寝ているであろう彼女を想像し、自然と顔を緩ませながら



「おやすみ。良い夢見ろよ。」



そして、携帯の電源ボタンを押し、静かに切る。

願わくば、君の夢に俺が出てきますように。